透視図法を使うに当たって、視野角(以下「画角」で統一)という概念を理解する事は

必須です。何がなんでも理解が必要です。

画角とは、絵の描画範囲を、画家の立場で、角度で表したものです。

なんだ簡単じゃないか、と思われるかも知れませんが意外とややこしいんですよ、これが。

 

 

パースを利用して人物画を描く場合、よくある失敗は、遠近を強調したダイナミックな

絵を描こうとして上手く行かないケースです。

例えば、こんな感じの絵をバーンと描きたいと思ったとします。

透視図法でダイナミックに描いちゃうよ!! …みたいな。

見本がショボくてすみませんけど。

 

 

結論から先に言うと、こういう全身の絵は、透視図法を適用させるのは無理です。

透視図法の権化である3Dソフトでこういう構図を作ろうとすると、どうしてもこうなります。

いやいや、もっとマシに出来るだろうと思われるかも知れませんが、出来ません。


左手と左足が長すぎで、モデルが間違っているのではと思っちゃいます。

 


でもモデルは正常なんです。上の3体は同じモデルです。何故こんなに表示がおかしくなるのかというと、カメラが近すぎるのに、全身を撮影しようとするからなんです。

これを一言でいうと、画角が広すぎる、という事になります。3Dソフトなので、これでも製図は間違ってないんです。

 

画角が広すぎると、製図は完璧でも見た目がおかしくなるので、絵としては全然ダメという事になります。

以下、この事象を理解できるように、説明してみます。

まず、遠くの物は小さく見える、これが原理として重要なので、特に意識して

続きを読んでくださいね。

 

 

巨大なカステラが目の前にあると思ってください。

 

上から見た図(平面図)

 

この状況で左を向くと、こういう景色になります。(以下の絵は精密に製図はしてません!)


左を見た図。

 


右を向くとこうですね。

 

遠くの物は小さく見えるので、こうなります。間違いないですね。

 

問題はこの人物が正面からカステラを見たら、

左右の両端が見えるという事です。

 

人間の視界は約180度ですから。

絵に描くと、どうなるか想像して見て下さい。

 

 

 

正面から見た図

こう描かないとしょうがないです。遠くは小さく見える原理に従えば、こうするしかありません。

絵と実写は違いますが、巨大カステラを正面から見た場合、これが実物に近い絵なんです。

魚眼レンズで見たようになります。実は人間の目は並の魚眼レンズ以上に魚眼なんです。

我々は、似た景色があれば、こういう風に見えているんです。

たとえば、長い壁であったり、長屋であったり、電車であったり、

横長の巨大な物を正面から見ると、実際こういう風に見えているんです。

遠くの物は小さく見えるのだから、間違いないです。

でも、人間の凝視できる範囲は500円玉くらいなので、景色の大部分がぼやけていて、直線が曲がって見えるのに

気が付かないだけなんですよ。

 

ところが透視図法で描くとなると、話が違います。ぼかして誤魔化せない!!

一体どうすれば良いのでしょうか。

 

 

 

この巨大カステラを無理やり一点透視で描くとこうなります。なんだか、よく分からないほど遠近が無視されています。

一点透視は左右と上下の縮小を無視するので、正面は直線の四角形になります(斜め線はパースラインだけで、この場合は正面に隠れて見えない)。

 

上の二枚の絵を重ねて、比較してみます。

中央から離れれば離れるほど誤差は大きくなり、両端では誤差がパッとみても5倍以上になっています。5倍も違えば、当然ですが、全然ダメです。

 

この場合、2枚の絵が一致しているのは、中央の赤線の部分だけで、端に行けばいくほど、すなわち画角が広くなればなるほど、誤差は大きくなります。

 

透視図法の場合、170度の視野角は広すぎる、近すぎる。

無理の無い限界は45度から60度と言われる事が多いです。

170度の両端と比べると、45度、60度の誤差は非常に小さい事に注目です。

中央しか正確でない透視図法は、画角を制限して、広くとも45〜60度くらいにして、誤差を無視する図法なのです。

繰り返しますが、45度でも60度でも、誤差はあるけれど、まあ、少しくらい良いじゃないですか、あんまり分かりませんよ、という事なんですね。

60度を超えると、誰が見てもおかしくなってくるのです。

( 画角が60度を超える構図を描かなければならない場合、製図ではなく、デッサンでなんとかします)

 

しつこいですが、透視図法で絵を描くときは、視野角(画角)を制限しないといけない。狭い範囲しか描けない。

もしくは、広い範囲を描きたければ描画対象から十分距離をとらないといけない(立点を遠くにとる)。これが重要なポイントです。

 

たぶん、みなさんの持っている携帯電話のカメラの視野角は広くても45度くらいなんじゃないでしょうか。

人の全身を写そうとすると、かなり離れないといけないのを、実際誰かを撮ってみて、確かめると良いと思います。

 

 

さて、話を元に戻します。

こういう感じのカメラが近い絵を描くにはどうしたら良いか?

何度も描いて、修行して、自力で普通に描けるようになるしかありません。

 

人間が一度に把握出切る視野の限界を超えている物を小さく絵にまとめるには、

人間が見て違和感がない様に人間の感覚で調整しないとしようがない現状です。

将来的に、計算でなんとか出来る様に、誰かがしてくれるのを期待するしかないです。

 

カメラを人物のすぐ近くに持ってくるような構図(画角が広い構図)は、透視図法で製図するとおかしくなるんです。

でも透視図法は参考程度にはなりますので、パースラインを引くのは良いと思います。

 

 

なんて思ってたら、デザインドールの嘘パース機能が人体の画角の問題の解決を試みるものです。

やっぱり考えてる方はいらっしゃるのですね。この機能を良好な操作性で実装。注目に値します。

inserted by FC2 system